*この記事は旧KŌSAの記事を再掲載しています。
熟練の手仕事が作る、履き心地の良いスニーカー
国内有数のスニーカーマニュファクチュアリング「ムーンスター」。履き心地はもちろん、不要なものを削ぎ落としたスタイリッシュなデザインには、長年培った靴作りの技術と経験が活かされています。
第5回目のインタビューは、国内のごく僅かな工場でしか生産できないヴァルカナイズスニーカー*を製造するシューズメーカー「ムーンスター」。ゴム産業の街として知られる福岡県久留米市の工場を訪ね、商品開発部ユース企画課・課長の平田さんとデザイナーの山田さんに話をうかがいました。
*ヴァルカナイズスニーカー:硫黄を加えたゴムの底とアッパーを接着し、窯で鉄と圧力をかける製法でつくるスニーカー
MADE IN KURUMEのマニュファクチュアリング
筑後川の豊かな恵みを受けた地にゴム産業が発達しました。
そのきっかけは、この地でスニーカーの原型となる地下足袋が誕生したこと。
創業140年を超えるシューズメーカー「ムーンスター」は、良きライバルであるアサヒシューズと肩を並べて、日本の靴作りを牽引してきました。現在でも熟練の手仕事と一貫した生産体制を駆使して、子供からお年寄りまでの幅広い層へ向けた靴を作り続けています。
さて、ここ久留米工場ではどのようなものづくりが行っているのでしょうか?
ー 平田さん、久留米の工場のものづくりについてお聞かせください。ここでは手作業が中心ですか?
平田:
この工場で機械を使っているのは少しで、ほとんどが手作業です。手作業にこだわっているというよりは、手作業じゃないとできないんです。例えば、原材料のゴムはうどんみたいなので、夏と冬では全然管理が違いますしね。ゴムを練る人は自分の手の感覚だけで作業を行っています。
裁断や縫製、糊打ちなどの作業は分業制でやっています。手作業を中心に狂ったところを細かくフォローしながら品質を保っているんだなと、工場の人たちを見ていて感じます。このフォローし合う感覚は、何万何千通りの偶然性がいっぱいあるので、機械ではなく人間が行わないといけないのかなと。
ー 機械ではなく人間だからできるものづくりにおいて、クラフトマンシップの精神はどのように根付いていますか?
平田:
工場の人たちは「悪い靴は作らんめいね」と。かっこいい靴を作りたいとかではなくて「糊が剥がれないように」などを常に気にしながら作っているようです。皆さんごくごく普通のおばちゃんたちで、自分の孫や息子に悪い靴を履かせたくないという想いもあるでしょうから。
ー 工場で作業する方を何と呼ばれていますか?例えば職人さんとか、、、
平田:
彼女たちは職人と呼ばれるとムズムズするみたいですね。「毎日同じようなことしようけん、上手くなるのはあたりまえやろ?」と。作業員とも行員とも呼びませんし、自分たちが上なわけでもありませんので。昔は現場のおばちゃんと言っていましたね。頻繁に工場へ行くと「あんたが言うならちゃんとしてやるばい」って信頼をしてくれるんですよ。
OEM商品から自社ブランド「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の商品開発へ
とっても素直でシンプルなスニーカー「MOONSTAR – MADE IN KURUME」は、しなやかなソールを持ちながらも丈夫で壊れにくく、洗練されたディティールと独特な素材感が魅力です。
自社ブランドとして4年前に誕生し、これまでに製造してきた様々なOEM商品や、上履きや体育館シューズなどの学校用品を製造した、技術と経験が活かされています。「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の誕生について、デザイナーの山田さんに話をうかがいます。
ー なぜ自社ブランドの開発を始めたのでしょうか?
山田:
弊社ではお年寄りから子供までの靴を作っていますが、20〜30代のターゲット層の靴は、他社のOEM商品を作っているだけでした。そこを久留米工場でもなんとかしようと、自社ブランド「MOONSTAR – MADE IN KURUME」をスタートさせました。デザインも凝ったものではなく、履いた時に美しいシルエットを追求していて、自分たちはもちろん同世代の人たちに履いてもらえるスタンダードな靴作りを目指しています。
ー 「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の製品の特徴を教えてください。
山田:
ムーンスターブランドには、ヴァルカナイズ製法で作る商品群「FINE VULCANIZED」と、ダイレクトインジェクション*という機械で底を射出して引っ付ける製法で作る「CHIC INJECTION」の2つのシリーズがあって、両方ともにムーンスターの久留米工場だからできる製法です。地元の伝統工芸である久留米絣を使った生地にこだわったものや、ソールがグラデーションになったもの、昔の体育館シューズをデザイン化したものなどのラインアップがあります。
*ダイレクトインジェクション:優れたフィット性とクッション性を持ち、海外では「靴下に底をつけた靴」とも呼ばれ、コンフォートシューズなどにも使用されている。大掛かりな生産設備が必要なため、国内では僅かな工場でしか生産することが出来ない。
ー ブランドの世界観はどのように作っていますか?
山田:
企画チームはみんな感覚が同じなので、チームの誰かが望むなら的外れではないよねと。自分たちで写真も撮れるし、工場の敷地がいいロケーションになるし、自分たちの洋服もあるので、自分たちだけでリーフレットをつくっちゃおうよと。WEBもこんなイメージがいいよねと。ウェブのコーディングや印刷などは外部に発注しますが、元になるデータは自分たちで作っています。
ー 自社ブランドを開発した後のまわりの反応はどうでしたか?
山田:
以前OEM先のお客さまは、ムーンスターで作っていることを伏せる傾向にありました。でも、このような活動をしていくうちに、メイドインジャパンのスニーカーという良いイメージが広がっていったのか、ムーンスター製と表示させたいという方が非常に多くなってきました。一般のお客さんのSNSの投稿を見ていても「子供の上履きを買いました。ムーンスター製です」と出てきて、最近はムーンスターのイメージがどんどん変わっていっていると感じることが多くなりました。
「MOONSTAR – MADE IN KURUME」のこれからの歩み
私たちの生活に欠かせないスニーカーは、ただ履きやすいだけではなく、ファッションアイテムとしても暮らしに彩りを添えてくれます。この春は作りの良い定番スニーカーの中から、お気に入りの一足を探してみてはいかがでしょうか。最後に「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の未来についてお二人にお話をうかがいます。
ー新たに挑戦してみたいことはありますか?
平田:
今後はムーンスターの商品を幅広く紹介できる自社のショップが欲しいなと考えているところです。
そして「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の靴を親子で履いてもらいたいですね。例えば、「KIDS GYM CLASSIC」シリーズは、あえて子供が履きやすいゴムバンドではなく、お父さんと同じ紐がついたデザインになっているので、子供さんの靴紐を結んであげて欲しいですね。
ー 「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の未来について教えてください。
山田:
久留米の工場には、鋳物や鉄工所、ゴム、裁断する人たち、縫製する人たちがいて、あらゆるものを自社で作っています。これらの技術は、靴の製造だけでなく他にも可能性を秘めていると企画をしていて感じます。実際に現場のおばちゃんが着ているエプロンも、現場の縫製の人に縫ってもらったものをつけている人もいるんですよ。今後は靴の製法を使って何か新しいプロダクトを作っていけたらいいねと、チーム内で話しているところです。
ムーンスター株式会社
ゴム産業の町として知られる福岡県久留米市で、明治6年(1873年)に地下足袋から始まり、140年もの間、靴を作り続けてきたムーンスター。人の足型を研究し、特にラバー素材にこだわることで履き心地の良さを保ち続けてきました。そして、ムーンスターが新たな一歩を踏み出すために、140年間の靴作りへの自信と誇りを込めた「MOONSTAR – MADE IN KURUME」の靴が誕生しました。
moonstar-manufacturing.jp