INTERVIEW 08 | kitta(沖縄県大宜味村)

*この記事は旧KŌSAの記事を再掲載しています。

自然の美しさの中に人間は何を添えられるのか
自然を賛美し、捧げられるようなものをデザインしたい

「人が自然と溶け合う風景を生むための衣」を制作する染色家。
沖縄北部にアトリエを構える「kitta」を訪ね、自然と調和する美しいものづくりに出会った。


自然豊かな沖縄のものづくりの地へ

夕闇が海に溶け出すような美ら海を眺めながら国道線58号を北上する。
道路脇に見える山羊料理の看板や家形の大きなお墓は、ここが独自の文化を持つ地であることを実感させてくれる。宵に吸い込まれそうな風景を走り抜け、kittaのアトリエへと向かう。

橘田優子さん(以下キッタさん)と澤野孝さん(以下サワさん)は、オリジナルの草木染めで衣服を制作するブランド「kitta」を主宰している。
彼らがアトリエを構える沖縄県大宜味村は、沖縄最古の織物・芭蕉布の里として知られる地域だ。
ぎらぎらと燃え上がる太陽の日差し、溢れるように生い茂った木々や草花、時折地面を激しく打ちつける雨。のびのびとした自然のエネルギーが、この地の美しいものづくりを育んだのだろうか。
kittaのものづくりもこの土地にフィットし、彼らの感性をも育んでいるようだ。

感覚を導くkittaの衣服

「全ての自然は、人間にはどうすることできない力も含めて、私にとってとても美しいものなの。私たちが生きていくために必要な糧、 喜び、悲しみ、生も死もその中に内包されていて。全ての存在が捧げ合っているようなものだと思う」

キッタさんはそう話す。幼いころから憧れ続けた自然の美しさと自己の表現が調和し、kittaというブランドが誕生した。植物が蓄えていた色素を布に染めて色を体現させ、身にまとう衣服として仕立て上げる。すると衣服は、まとい手の動作によって表情を変え、その人自身をも美しく輝かせるのだ。

「私たちが創り出すものが、自然界の美しさの媒体でありたいと思っていて。自然がすごく美しいと感じるのは、視覚として見えている部分だけじゃないじゃない?見えない部分も感覚を通して入ってきて、美しさを実感していると思うの」

kittaのものづくりは、私たちに内包する野生的な感覚を導き出してくれる。

自然界のエレメントで染める草木の色

kittaが染める草木の色はとても深く、色の中の色を見ているようだ。
布はキャンバスの役割を果たし、彼らの感性と共に染め上がる色が、本質を貫くアート作品のように見る人の心をとらえてしまう。

「自然の力を借りて人に伝える。薪の火で水を温めて色を染めるという行為は五行の要素でもあるし、自然界のエネルギーを循環させているような感じかな。染めた後に服を干すと、服が風にゆられて自然と戯れながらダンスしているようだしね」

そう語るサワさんは、これまで多くの時間を植物とコミュニケーションしてきた人だ。
沖縄に移住してからは、琉球藍の栽培にも挑戦している。植物の栽培という過酷な労働に精魂を捧げ、染料を自給する難しさに悪戦苦闘する毎日を過ごしている。
今年で6回目の収穫を迎えたが、10年間は栽培を続けてみたいという。琉球藍との出会いは、彼らが表現する草木の色にさらなる深みと輝きをもたらすのだろうか。サワさんのチャレンジはまだまだ続く。

沖縄へ移住して

沖縄を制作の拠点として6年が過ぎた。
以前は千葉県の鴨川市を拠点としていたが、2011年に起こった震災をきっかけに、この地へ移り住むこととなった。世界中の人々が自然の脅威におののき、さらには福島原発事故という人災を引き起こした東日本大震災。当時、キッタさんは美しい自然を人間の手で汚してしまったことが悲しくて、ただただ泣いていたという。移住後もショックは拭いきれず、善悪について苦悩する日々が続いた。

「今は震災から少し時間が経って、人の価値観も少しずつ変わってきているよね。私もいろんなことが受け入れられるようになってきた。以前は自然に対する感情移入が激しくて、いろんなものを否定していたんだよね。ここへ来てからは、自分の中にある欲や愚かさも、以前よりは大きな目で見れるようになった。いろんなことへのジャッジを外したり、できる限り様々な角度から物事を眺めながらも、中心にある愛からはぶれずに、より自由にものづくりを続けていきたい」

沖縄で過ごすキッタさんとサワさんは、人生を謳歌しているように見えた。この地に来て、彼らの感性に「自らを生きる喜び」という価値が加わったのだ。

色のグラデーションと調和

「kittaの色のグラデーションは、全てが境目なく繋がっているという表現。色鉛筆の色は区切られているかもしれないけど、実はその色と色の間には無限に色があって。色全体をひとつの連鎖としてとらえているの」

kittaの展示会では、いつも衣服がグラデーションに陳列されている。色の循環というコンポジションの中に、美しくデザインされた個としての衣服が存在する。
全体の中に個を見つけ、個を通して全体を見る。それはまるで沖縄の夕暮れを眺めるひと時のようだ。空と海が調和する圧倒的な美しさにたたずみ、自分もその風景の一部になっているような感覚。

「自然の美しさの中に人間は何を添えられるのか。自然を賛美し、捧げられるようなものをデザインできたらいいなと思う」

kittaの衣服は、海に溶けるグラデーションのように、私たちに優しさと喜びを添えてくれる。

kitta
1997年より、東京のワンルームマンションの一室で、キッタが草木染の衣類を作り始める。2004年からは、サワと二人で本格的に「kitta」として草木染めの衣類の制作を開始。2011年に千葉県鴨川市から沖縄北部へ移住。比嘉琉球藍製造所との出会いをきっかけに、琉球藍の栽培、泥藍の製造、染色に携わる。現在は薪の火と発酵による植物染色を用いて衣を中心に布から生まれる空間やものを制作。国内外で作品展やワークショップを行っている。 サワは、sawadii名義で音楽活動も展開。現在までに4枚のアルバムを発表し、ドキュメンタリー映画や映像への楽曲の提供も行っている。 
kittaofficial.com

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